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  7. 妻が応援してくれた。それがなにより心強い。 / 12話 side満

妻が応援してくれた。それがなにより心強い。 / 12話 side満

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地元の友人でラッパーのタカヒロからの紹介で、転職エージェントK.Dこと土井から届いた名古屋のフォトスタジオの求人に心揺れる満。ワクワクする仕事内容だけど、転職するとなると今住んでいる川口から引っ越しをすることになる。給料も下がる。夢を叶えるために東京に出てきたのに。
迷いながらも満は、転職エージェント土井に連絡をとることに――。

妻が応援してくれた。それがなにより心強い。 / 12話 side満の画像1

第12話 side 満

今日は1月にしては暖かい日で、早めの昼休憩に入った俺はふらりと会社を出て、パン屋に入った。


沢山のラインナップの中から、マヨベーコン玉子焼きパンとぐるぐるソーセージパン、かりかりカレーパンを購入。

誰かが言っていた、男の味覚は中学生のままだと。


   「あー、きもちいいな」


思わず声に出して、豊洲公園に向かった。広々とした敷地内にあるベンチに座ると、背の高いビルたちと運河が見える。

今日は風がないから、本当に気持ちがいい。

まぁ、気持ちがいい理由が天気の他にもある。

それは昨夜、キリとゆっくり話せたこと。



転職のこと、「はぁ? 名古屋?」とか言われちゃうかなって思ってたのに、応援してもらえて、素直に嬉しかった。

前は「余計なことは言わずにいよう」と思っていたけど、やっぱり日ごろからちゃんと話してると、お互いの気持ちがスムーズに入って来る気がする。

妻が応援してくれた。それがなにより心強い。 / 12話 side満の画像2

   「…よし」


パンを食べ終えると、俺はスマホを取り出し、K.Dこと転職エージェントの土井和夫に電話を掛けた。ドキドキドキドキ…。


土井  「もしもし」

   「あ、どうも、お世話になってます。あの、円田満です。タカヒロの友達の」


俺の言葉に土井は少しの間を空けたあと「あー!」と声を出した。

そして俺が話を聞きたいと伝えると、転職する場合の流れを教えてくれた。


土井  「応募する場合はまず社内で、円田さんのスキルと募集先が欲しがっている人材がマッチするか検討します。その上で応募可能な場合は先方に履歴書を出して、それが通れば面接、となります」

   「あー…なるほど」

土井  「タカヒロから聞いてる感じだと、円田さんのスキルは問題ないと思います。社内審査は100パー、いや、120パーいけると思います。どうしますか? 社内審査に出してみますか?」


もし万が一、社内審査が通ったら…もう次は書類審査で、それも受かったら面接…それも受かったら採用…。

いや、そんなトントン拍子にいかないよな。

でも万が一、トントン拍子にいっちゃったら、もう転職なわけで、いいのか、俺。

今、この場で決断できるのか、俺…。



即答できずにいると、土井はそんな依頼主のフォローなんて手慣れた様子で語りかけてきた。


土井  「人生の大きな決断ですもんね。悩んで当然ですよ。不安もあると思いますし、一度フォトスタジオをを見に行くのはどうでしょう。とっても人気のお店なんですよ。なかなか予約が取れなくて」

   「へぇ…そうなんですか」

土井  「うちの娘も七五三で写真をお願いしたんですけど、嫁が1年前から予約してて、はは」

   「それはすごいですね」

土井  「どうしてもそこがいい、って人にはたまらないんだと思います。あと、正直なことをいうと実は時間があまりありません」

   「そ、そうなんですか…」

土井  「募集締め切りが今月の25日なので、2週間後ですね」

   「…。ちょっと考えます」

土井  「分かりました。またいつでも連絡ください。今度、岐阜に来るときはタカヒロも一緒に飯でも行きませんか?」

   「そうですね、連絡します。じゃあ」


電話を切って、冬晴れの空を見る。


   「土井さん、タカヒロの友達なのに、話し方が普通だったなぁ。まぁ、転職相談で韻を踏まれたら不安になるけど。…って、そうじゃないか」


あと2週間。後悔しないように、転職のこと、ちゃんと自分と向き合って考えてみよう。

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――その夜の食卓。

俺の放った言葉に驚いたキリが焼き魚の骨取り作業から顔を上げる。


キリコ 「え?」

   「だからね、今週末、名古屋に行ってみようかなって」

奏太  「なごやってなに、ママ」

   「名古屋っていうのはね」

奏太  「パパじゃない! ママに聞いてるの!」


…うっ。奏太の「パパきらい」モードはまだ地味に続いている。心が折れそうだけど負けない…。


キリコ 「名古屋っていうのは、おばあちゃんちの近く」

奏太  「へぇ!」

キリコ 「フォトスタジオを見に行くってこと?」

   「うん。いや、まだ全然、転職する気持ちが固まったわけじゃないよ? でも募集締め切りまで時間がないみたいだし。試しに、都内の転職先も検索してみたんだよ。でもこれっていうのがなくて。俺、転職したいっていうか、やっぱりフォトスタジオの仕事内容に惹かれてるのかなぁって」

キリコ 「なるほどね」

   「でさ、奏太」

奏太  「……」

   「こっち見て」

奏太  「なに!」

   「今度のお休みさ、パパと新幹線に乗らない?」

奏太  「え! 新幹線?」


ふてくされていた奏太の目が輝いて、俺を見つめる。奏太の目の中に俺がいる。嬉しい…。


   「うん。ここのところ、あんまり遊べてなかったでしょ。だからパパと2人で新幹線に乗ってさ、旅に出よう」

奏太  「旅?」

   「ルンルンルン♪ 旅に出よう♪ ぼくらの冒険に出かけよう♪」

奏太・満「ルンルンルン♪ おやつオッケー! お弁当オッケー! 出かけよう♪」

   「一緒に行ってくれる?」

奏太  「うん!」

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浮かれる男子2名を落ち着いた女子1名が何か言いたげに見つめている。

なに? 仲直りして、俺いますごい嬉しい気持ちなんだけど。


キリコ 「でもどうするの? お義母さんたちにはなんていうの?転職の話するの?名古屋に転職するって言ったら、地元に帰って来るってめっちゃ期待するよね。とくに、お義兄さん…」

   「言わない、言わない。期待させるようなことは言わないよ。奏太と仲直りするために新幹線に乗せた、とでも言うよ。大丈夫。それ以上、突っ込んでこないと思う」

キリコ 「うーん…。で、私は? どうしたらいいの? 私も行くの? その日は吉田さんと打ち合わせだし…」

   「どっちでもいいよ。たまには1人を満喫してもいいし。…まぁできたら一緒にフォトスタジオを見てほしいっていうのもあるけど…」

キリコ 「そっか。でも…1人を満喫も捨てがたい……!」


苦渋の選択に頭を抱えるキリにも奏太は容赦しない。


奏太  「ダーメー! ママも一緒にいくの!」

キリコ 「…え、でもママさ、その日お仕事の用事があって…」

奏太  「お仕事ってなに?」

キリコ 「うーん…えっと、いろいろ書いたりするお仕事で、そういうのをライターっていうんだけど…火をつけるやつじゃないよ?」

奏太  「わかんない!!」

   「ママはお勉強があるんだよ」

奏太  「おべんきょう? うーん…ママもお勉強おわったら来て」

キリコ 「……考えとく」

奏太  「ダーメー」

キリコ 「………うん」


とりあえず俺は土井に電話をし、週末子連れで地元に帰ることを伝えた。


妻が応援してくれた。それがなにより心強い。 / 12話 side満の画像5




――そして土曜日。その日も冬晴れで冒険に出るには最高の天気だった。

新幹線に乗ることが楽しみで仕方ない奏太は朝6時に起きてしまい、「もういこう!」「はやくいこう!」と言って聞かず、8時半前には家を出た。

3時間半後。西岐阜駅に着くと、母ちゃんの運転する軽自動車が待っていた。


真由美 「奏ちゃん、よく来たね」

奏太  「おばあちゃん、まってたの?」

真由美 「そうだよー。奏ちゃん、新幹線に乗って来たの?」

奏太  「うん!」


奏太と後部座席に乗り込み、軽自動車がゆっくり出発する。


奏太  「うんとねー、おうちから川口駅までバスに乗ったの。それでねー、けいに乗ってー」

   「京浜東北線ね」

奏太  「東京駅に行ってー、のぞみに乗ったの」

真由美 「すごいねー、なんでも覚えてるんだね。お兄ちゃんになったねー」

   「基本移動はだっこだけどね。ぜんぜん歩かないんだもん」

奏太  「だってぼくー、まだ3歳だから」

真由美 「あははっ。そうだよね」


興奮してろくに朝ごはんを食べていなかった奏太が「おなかすいた。らーめんたべたい」と言い出し、俺たちは実家に行く前に直接「おぼろさん」に向かった。

相変わらずなぜか繁盛していて、ちょうど空いた座敷席に座った。


ツヨシ 「はい、いらっしゃい」

奏太  「じいじは?」

ツヨシ 「じいじは引退。今日はラーメンを食べに行ったよ」

   「…ほんっと好きだね」

ツヨシ 「親父は研究熱心なの。新規にオープンしたラーメン店は行かずにいられないの。奏ちゃん、何にする?」

奏太  「おにくらーめん!」

ツヨシ 「はいよ、チャーシュー麺ね」

奏太  「ちがう、おにくらーめんって言ってるでしょ」

ツヨシ 「はいよ、お肉ラーメン、お肉てんこモリモリで!」

奏太  「ふふふ。もりもりでー!」


その後、「こうえんにいきたい」と言う奏太を連れて、近所の公園に向かうと、地元の不動産王・江原が末の娘と砂場で団子を作っていた。

妻が応援してくれた。それがなにより心強い。 / 12話 side満の画像6

江原  「あれぇ!? なにしてんの!」

   「そっちこそ、仕事は? 不動産屋が土曜日に遊んでていいんですか」

江原  「いやさー、週末に遊ぶのも大事。だってうち、週末しかがっつり子どもたちと遊べないんだもん。月に1回は嫁と交代で休みにしてんの」

   「そうなんだ。上の子たちは?」

江原  「グランドの方にいるよ」


江原が指さす方に男の子が2人が見えた。

江原のうちは確か、9歳、5歳、3歳だったかな。末っ子は奏太と同級生で、保育園に通ってたはず。

いつものえびす顔で江原が奏太に声を掛ける。


江原  「この子ね、咲奈っていうの。さなちゃん。奏太くん、よろしくね」

咲奈  「よろしくね」

奏太  「………」


奏太は困った様子で俺の後ろに隠れてしまう。


   「奏太、よろしく、でしょ?」

奏太  「………」

   「ごめんね、さなちゃん。奏太はちょっと人見知り、場所見知りがあるんだ。慣れれば元気いっぱいくんなんだけどね…」

江原  「みっつーと同じじゃん」

   「否定…できないね」

江原  「ははっ!」


奏太と咲奈が別々とはいえ、砂場で遊び始めたから、俺と江原は子どもたちを見つつ、砂場のふちに座って話し始めた。


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江原  「あれからどうなったの? 転職と家購入は?」

   「どうにもなってないよ。ただ今日は夜にタカヒロと転職エージェントの土井って人に会うけどね」

江原  「えー、なにそれ。俺も呼んでよ~」

   「絶対やだ。来ないで。まとまる話もまとまらなくなるから」

江原  「ひで~。でも、いろいろ決めるなら早い方が良いよ。転職先は誰か先に決まっちゃうかもだし~、家も売れちゃうかもだし~、幼稚園の募集定員が埋まっちゃうかもだし~」

   「うーん」

江原  「うちはね、桜葉幼稚園に願書だすよ」

   「そうなんだ? 保育園に行ってるんだよね?」

江原  「うん、今はね。ほら、桜葉って延長あるからさ、そっちに移ろうと思って。次男も行ってるし、長男も行ってたし、いろんな体験とかさせてくれる幼稚園ってわかってるからさ。それにほら、やっぱり行事とかの関係で、兄弟ばらばらだと大変なのよ」

   「あー、なるほどね。幼稚園、変わった? 中とか」

江原  「うん、まあね。さすがに俺たちが行ってた頃のまんまじゃないよ。綺麗になったよ。今はすごい人気があってさ。プレに行ってないと入れないらしい」

   「へー…そうなんだ」

江原  「でも安心して」

   「なに?」

江原  「奏太くんはプレに行ってなくても入れるから」


にやりと笑う江原を見る。こういう笑顔をこれまで何度見てきただろうか。

江原は子どもの頃から優柔不断な俺の背中をぐいぐい押しまくってきた。


押されたせいで大人に怒られたこともあるし、押してもらってよかったと思える思い出もある。

今回はどちらに転ぶだろうか――。

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▶︎▶︎ 次回、13話は、3/23(金)20時公開予定!

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この記事を書いた人
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さいとう美如

フリーライター。映像作家の岩井俊二に師事し、2005年にラジオドラマで脚本家デビュー。映画『虹の女神』、恋愛スマホゲーム『花婿ロワイヤル』、そのほか小説、漫画原...

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