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老後なんてまだ想像できないけど、親になってもそれぞれの人生がある。 / 21話 sideキリコ

老後なんてまだ想像できないけど、親になってもそれぞれの人生がある。 / 21話 sideキリコのタイトル画像

内見した岐阜の家は理想的な家だった。しかし、引っ越した場合に通うことになる桜葉幼稚園のプレに参加した奏太は、人見知りと場所見知りで号泣。川口に戻り、川口つばさ幼稚園で友だちと笑い合う奏太の姿をみたキリコは引っ越しが奏太のためになるのかと心揺れる。話し合いの中、奏太が環境に慣れるよう岐阜にある満の実家で少しの期間過ごしてみたらどうかと満に提案されたキリコは―。

老後なんてまだ想像できないけど、親になってもそれぞれの人生がある。 / 21話 sideキリコの画像1

第21話 side キリコ


奏太が岐阜の環境に慣れるために、義実家に連泊することを夫から提案された翌日――。

姉・洋子から電話があって、私は奏太を連れて栃木県にある実家に向かっていた。

お父さんの退職祝いっていうタイミングのいい帰省理由ができてよかった。

ごちゃごちゃになっている頭の中を夫と離れて整理したい。


少し薄暗くなってきた16時過ぎ。

湘南新宿ラインに乗ってハイテンションの奏太と一緒に小山駅に降り立つ。

改札を抜けてロータリーに向かうと、姉の車、ワイン色のセレナが停まっている。


奏太  「わ~! おおっきいくるま!」

洋子  「奏ちゃん、こんにちは。うしろ、チャイルドシートつけといたよ」

キリコ 「ありがとう」


車が発進し、奏太は窓の外を見ている。


奏太  「あれ、ちーちゃんは?」

キリコ 「ちーちゃんはバスケットボールだって」

奏太  「ふ~ん、ボールかぁ」

キリコ 「ちーちゃん、夕飯の時は来るの?」

洋子  「ううん。部活が終わったら友だちの家で勉強するらしくて、今日は夕飯をごちそうになるみたい」

キリコ 「そうなんだ。いいなぁ、中学生」


私の言葉に姉はふっと笑う。


洋子  「まぁ奏太よりは楽かもしれないけど。そうやってママに引っ付いてる頃が懐かしくもあるよ。今なんて親より友だち、親が呼び出されるのは足に使われるときだけよ」

キリコ 「そんなもんかねぇ」

洋子  「そんなもんよ。クソ生意気になるしね~。マジで腹立って大喧嘩になるよ」


10年後…。奏太も姪っ子ちーちゃんと同じくらいの歳になるんだよね。

夫のお兄さんは中一で髪の毛を染めてたって言うし…。

あぁ、出来れば奏太がお母さんに優しいタイプの青年になりますように…。



老後なんてまだ想像できないけど、親になってもそれぞれの人生がある。 / 21話 sideキリコの画像2




奏太  「ママー、どこに行くの? ちーちゃんち?」

キリコ 「ちがうちがう。え、言ったじゃん? おじいちゃんの家に行くの」

洋子  「おじいちゃんと一緒にご飯食べるんだよ~。お泊りするんだよ~。泣いちゃうかな?」


姉とバックミラー越しに目が合う。


キリコ 「どうだろ? …あー、でも考えてみたら奏太って、お泊り、義実家でしかしたことないかも」

洋子  「あれ、実家に泊まったことないんだっけ?」

キリコ 「うん。年始の挨拶は日帰りだし。だってお父さんしかいないんだもん。布団ちゃんと用意してくれるか微妙じゃない?」

洋子  「ははっ確かに。かび臭いまま寝るかもね」

キリコ 「夕飯だってさ、お母さんがいれば…」


そんなこと言っても仕方ないんだけどさ。

お母さんは4年前、鹿児島で一人暮らしをしている自分の母を心配して実家に行き、そのまま栃木の家に帰って来ない、一度も。

両親の突然の別居に私も姉も驚いたけど、お父さんは育児も家事もお母さんに丸投げの人だったから、今は「お母さんおつかれ!」という思いでいる。


奏太  「おじいちゃんちお泊りするの? おじいちゃんち、おもちゃある?」


おじいちゃんち、おじいちゃんちって…。

おばあちゃんも健在ではあるんだけどなぁ。

電話やメールで奏太の声や写真は伝えてきたけど、奏太がもう一人のおばあちゃんに会ったことがないのはどうなんだろう? と時々思わなくもない。

老後なんてまだ想像できないけど、親になってもそれぞれの人生がある。 / 21話 sideキリコの画像3

キリコ 「あるじゃん。ちーちゃんが使ってたお人形さんとか」

奏太  「やーだー! お人形さんはやーだー! くるまかでんしゃがいいー!」


誰か一緒だとワガママ言ってもママはそんなに怒らないと思ってるんだろ、奏太。

そんなことないぞ。姉の前なら素で怒れるんだからな。


キリコ 「…奏太ぁ」

洋子  「じゃあ、おもちゃ屋でも寄る? 私が何か買ってあげるよ」

キリコ 「ワガママばっかり……え、いいの?」

洋子  「いいよ、いいよ。奏太、何がほしい? ちーちゃんママが買ってあげる」

奏太  「わーい! えっとねー、しんかんせん!」



そのあと、新幹線のおもちゃ買ってもらってご機嫌の奏太と共に、寿司屋に寄り、お祝いの寿司を受け取った。


お寿司やお惣菜とか、買ったものばかりが並んだローテーブルを父・純一、姉、私、奏太で囲み、父の退職祝い会が始まった。

姉と父はお酒が大好きだからビールをグビグビ飲んでいる。

私はそんなに得意じゃないからノンアルコールビールで雰囲気だけ付き合う。


お母さんがいない実家。もう4年経つけど、やっぱり違和感ある。

「そういえば昨日作ったポテトサラダもあるけど食べる?」とか言いながらキッチンから顔を出しそうなのにな。

部屋はいつもそれなりに片付いていて、母がいなくても整理整頓できるようになった父の成長がなんだか切ない。

父と母はすれ違っちゃったまま、ずっと離れて暮らしていくのかな。

長年一緒にいたのに、年を取ってから別々なんて寂しくないのかな?

そんなことを思いながらえんがわの握りを口にする。うまい。

奏太はお米をトレーナーの袖に付けまくりながら海老の握りを美味しそうに食べている。


老後なんてまだ想像できないけど、親になってもそれぞれの人生がある。 / 21話 sideキリコの画像4




グビグビグビーっとビールを飲みほした姉が、ふーっと息を吐いてから口を開いた。


洋子  「いやー、まったく。お母さんも帰ってくるべきだよね。そう思わない?」


…うっ。すんごいストレートに言ったね。

今夜はそういうの突っ込んじゃう気なのかな、姉よ。

ドキドキしている次女の気持ちとは裏腹に、父はまったく顔色を変えない。


純一  「いや別に。俺は仕事が好きでやってたし、祝ってくれなくたっていいのに。俺はね、やり切った感でいっぱいなのよ。満たされてるの」

キリコ 「へ、へー…そういうもんなんだ」

純一  「うん。それにね、また母ちゃんとは暮らすし」


えぇ! びっくり発言、純一からも飛び出しましたよ。


洋子  「え、そうなの? お母さん、いつ帰って来るの?」

純一  「ちがうちがう。俺がね、鹿児島に行くの」

キリコ 「えぇ!!」

純一  「この家は、知り合いに貸す」

洋子  「はぁ!?」


ちょっと色々と頭がついていかないぞ…。

え、この家は人に貸して、父は鹿児島に…。


洋子  「何言ってんの? 聞いてないし!」

純一  「言ってないし!」

洋子  「ちょっとふざけてないで説明して!」


あ、姉がキレそう。落ち着こう…。

ぜんぜん落ち着けないけど、落ち着こう…。


純一  「俺はね、これから全国釣り旅をするの。釣りバカ日誌みたいに」


あぁ、うん。私の父はこういう人でした。

全部否定するんじゃなくて、父の目線になって話を聞いてみよう…。


キリコ 「全国って…どんだけお金かかるんだろ」

洋子  「そうだよ。老後の資金を使いきっちゃうんじゃないの?」

純一  「いやいや、そのための家賃収入だし」


な、なるほどね。遊ぶお金を家賃で作るわけだ…。

老後なんてまだ想像できないけど、親になってもそれぞれの人生がある。 / 21話 sideキリコの画像5

洋子  「…ちょっとさー、勝手すぎない? 私たちに何の相談もなしにさ。お母さんは知ってるわけ?」

純一  「うん」

キリコ 「っていうか…お母さんとは仲直りしたの?」

純一  「仲直り?? なんで?」

キリコ 「だってお父さんがそんなんだから、お母さんは家出したんでしょ?」


私の言葉に父は大きく口を開けて笑い始める。

心底、愉快という表情で。


純一  「家出? あはははっ! おばさんの家出! 哀愁が漂うね! あーはははっ! お腹痛い! ちがうよ、ちがう。ほら、母ちゃん病気が見つかったでしょ」

洋子  「え? いつ」

純一  「鹿児島に行く前」

キリコ 「知らない…けど」


もー、何なの、家族内秘密が多すぎる!


純一  「そうだっけ? あの時ね、なんだかお腹が変な感じするわ~って言って、病院に行ったの。そしたらね、卵巣が腫れてて。悪性だったら、癌だからさ、母ちゃん長くないかもって話になって」

洋子  「えぇ!?」


もう何があっても驚かない。続けて。


純一  「そしたら母ちゃんが泣くわけよ。娘2人は嫁に行ってカワイイ子どももいて良かった。でも一つだけ心残りがあるって。鹿児島に1人でいるお母さん。お母さんともう一度一緒にゆっくり生活してみたかったって。それでね、したらいいじゃない、って言ったの」

キリコ 「で、病気は?」

純一  「良性だったの。だから大丈夫。経過観察」

キリコ 「そうだったんだ…。お父さんが何もしないから、お母さんは嫌気がさせて家出したんだとばっかり…」

純一  「おいおいおい。わかってないなぁ。母ちゃんと俺は仲良しだよ」

洋子  「なんだー知らなかったよー…」


しみじみうなずきながらあぶりサーモン握りを頬張った姉が頭を傾げる。


洋子  「…ん? 良性だったんだよね? じゃあ栃木に帰ってきても良くない?」

キリコ 「…だね。やっぱりお父さんも原因の一つなんじゃないの?」

純一  「あははっ。だから違うって言ってるじゃないの! おばあちゃんの代わりにデコポン作りをやってるんだよ。けっこう稼いでるよ、母ちゃん。俺も釣りしながら手伝うのよ」


老後なんてまだ想像できないけど、親になってもそれぞれの人生がある。 / 21話 sideキリコの画像6




父はニコッと笑って、グビっとビールを飲み、マグロの握りを食べる。


純一  「それにさ、家を貸すことを娘に相談もしないで、っていうけど、お前たちどっちもこの家を出ていったじゃんよ」


うっ…。そうですね、婿をもらう考えはありませんでしたよ。


純一  「住んでないやつにこの家のことをどうこう言われてもなぁ」

洋子  「そうだけどさ…。でもここは私とキリコの実家だよ?」

純一  「まあ、とにかくね。俺はね、母ちゃんが死んじゃうかもしれないって時、結果が出るまで毎晩眠れなかったの。それで俺だったらどうしたいかなって考えるようになって。そんで思ったのよ。あー、思う存分、釣りがしたい。全国つり旅したら悔いが残らないかなぁって。だから家を貸して、お父さんは釣り旅に出る。お前たちも悔いの残らぬ人生を送りなさい。以上! 解散! って古いか。あはは」


一方的に話した父は酔って寝てしまい、姉は私と奏太の布団を敷いて自宅に帰った。

私は奏太とお風呂に入り、客間に敷かれた布団に入る。

なんだかんだではしゃぎ疲れていたのか、奏太はすぐに眠ってしまい、逆に私はなんだか目が冴えて冴えて…こっそり布団を出た。


リビングに向かうとちょうど父が大あくびをして目を覚ました。


純一  「…ん?」

キリコ 「もう10時だよ。お姉ちゃんは帰ったし、奏太は寝ちゃった」

純一  「あぁ、そうなんだ。俺もトイレ行って寝るわ」

キリコ 「うん」


リビングから父が出て行き、静まり返ったリビングを見回す。

スヌーピーの掛け時計。ずっと同じだなぁ。

企業名が入ったカレンダー。これも毎年同じ。

本棚の一番下にフォトアルバムがあることに気づく。

なんとなく手に取り、小さかった頃の自分、家族を見て思わず微笑む。

…よかった。父と母が本当は仲良しで。

大人になってもやっぱり両親には仲良しでいてほしいもんなんだな。

老後なんてまだ想像できないけど、親になってもそれぞれの人生がある。 / 21話 sideキリコの画像7

思いのほか、安堵している自分に笑いながら見ていると、学校の卒業アルバムが出てきた。

小中高と「将来の夢」が書かれいて、その内容に自分のことながら笑えてくる。

小学校は「記者になりたいです」
中学校は「作家さん」
高校は「ライター」


キリコ 「ずっと同じじゃん」


そして本棚に並ぶ「文章が上手くなる本」「エッセイを書こう!」などの背表紙に触れる。

読む人が楽しい文章を書きたい、そう思ってたくさん本を読んで、毎月「公募ガイド」も買っていた。

今思うとすごいけど、小学校6年生から毎月のように何かしらの募集に自作のエッセイなどを送っていた。

怖いもの知らず、というか。

当たって砕けて泣くこともしばしば。

そんな私の元に一度だけ応募先から手紙が来たことがあった。

中学3年生の私が受け取った手紙が…本の間からパラリと床に落ちる。

その手紙の内容は、まるで今の私を励ますようなものだった――。

老後なんてまだ想像できないけど、親になってもそれぞれの人生がある。 / 21話 sideキリコの画像8

▶︎▶︎ 次回、22話は、4/27(金)20時公開予定!

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この記事を書いた人
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さいとう美如

フリーライター。映像作家の岩井俊二に師事し、2005年にラジオドラマで脚本家デビュー。映画『虹の女神』、恋愛スマホゲーム『花婿ロワイヤル』、そのほか小説、漫画原...

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