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これからの家族の生き方を、家族みんなで決める。 / 22話 sideキリコ

これからの家族の生き方を、家族みんなで決める。 / 22話 sideキリコのタイトル画像

引っ越しは奏太のためによい選択なのだろうか。悩むキリコは、奏太を連れて帰省した実家で、両親が別居していた理由を知る。そしてその夜、卒業アルバムを開き、当時書いた将来の夢を思い出す。

これからの家族の生き方を、家族みんなで決める。 / 22話 sideキリコの画像1

第22話 side キリコ

父の退職祝いで奏太と実家に来た今夜――。

みんなが寝静まった家の中でひとり、10代の頃に読んでいた本を懐かしく見ていると、古い封筒がひらりと私の足元に落ちた。

送り主に「茶花出版社」の文字が見え、私はすぐにそれが何か気づく。


キリコ 「…うわぁ、これここにあったんだ」


その場にしゃがみ込み、封筒を取ると、私はこたつに足を入れる。

隠してあった宝物を開くように、ドキドキしながら中の便せんを取り出すと、そこには中学3年生の私が書いたエッセイについて、編集者のコメントが書かれていた。

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夏祭りがテーマの募集に送っていただきありがとうございます。小学生の頃の体験が細かく描写されていて、自然と絵が頭に浮かびました。

次はキリコさんの等身大のいまを書いてみてほしいです。中学3年生の夏は一度しかありません。好きな人や友人とどこに行きましたか?色んな事にどんどんチャレンジしてみてください。

少し思い切るような体験がキリコさんの作家力をアップさせてくれますよ。期待しています。
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これからの家族の生き方を、家族みんなで決める。 / 22話 sideキリコの画像2




何に応募しても受賞せず、コメントももらえずにいた私は、この丁寧な手紙をもらい、「ちゃんと読んでくれてるんだ!」と舞い上がったのを覚えている。

執筆熱がさらに上がった私は受験だというのに、勉強そっちのけでエッセイを書いていて、何度もお母さんに怒られたよなぁ。

怒られてもその熱は冷めなくて、募集締め切り前はとくに没頭しすぎて部屋の中は散らかりまくってたし、走り幅跳びの授業で汚れてた体操服も放置してて、それに切れたお母さんが原稿を隠したこともあったっけ。

あの時は「鬼!」と思ったけど、いまはタイムワープしてお母さんと一緒に怒ってあげたいわ…。

それでも負けなかった私は「なにくそ!」と徹夜で一から原稿を書き直して、〆切当日の朝に書き上げたんだった。

そのパワーにお母さんが負けて、私の代わりに郵便局へ封筒を出しに行ってくれたっけ。

本当いま思うと若い頃のエネルギーってすごいわ。

体力ももちろんだけど、なんていうかゆるぎない自信というか、とにかく真っ直ぐ。



大人になった今は何かあると、別の道を選んでみたり、自信がないから初めから諦めてばかりいるかもしれないな…。

そんな私をあの頃の私がみたらどう思うだろう。

一応ライターになった私を見て喜んでくれる?

ハッキリしない今の私をかっこ悪いって思う?

頑張ってよ! って言うかな?




――いまの自分はあの頃の自分になんて言いたい?

『いまの自分はそれまでの自分が頑張ってくれたおかげ。何があっても夢を追い続けてくれたから。ありがとう』

そう言いたい。

じゃあ10年後の自分はどうかな?

いまの自分になんていうだろう。

ありがとうって言って…くれないかもしれない。

だって10年後のために努力してるって胸を張って言えない。

日々の忙しさにただただ圧倒されて、面倒なことに立ち向かえてない。

…それでもいいじゃない、疲れてるんだよ。




でも…。

ライターとしても頑張りたいって、名古屋のカフェで語ったのにすぐに諦め過ぎかな…。

このまま面倒なことから逃げたら後悔する気がする。

奏太も私も夫も納得のいく未来にしたい。

そのためには夫のいう通り、努力をしてみないと始まらない!

これからの家族の生き方を、家族みんなで決める。 / 22話 sideキリコの画像3

私はリビングにあったチラシを取り、裏返すと白い一面に奏太の不安を少しでもなくす方法を思いつくままに書き始めた。


・幼稚園に慣れる
・幼稚園周辺に慣れる
・新しいお友だちができると楽しい
・おばあちゃん、おじいちゃん、にいにたちが近くにいる楽しさ
・庭がある家の楽しさ(戸建てを買うことが出来るなら)
・田舎ならではの体験


これからまだまだ続く人生の中で義実家に連泊なんてほんの一瞬じゃないか!


キリコ 「よし」


寝室で眠る奏太の寝顔を見た後、私は庭に出た。

北関東の冬の夜は寒いけど、この寒さが体と頭をシャキッとさせてくれる。


キリコ 「うわ、星めっちゃきれい」


星を眺めつつ、私は夫に電話を掛けた。


キリコ 「もしもし、いま大丈夫?」

   「うん、どうかしたの?」

キリコ 「あのさ、一人で考えてみたんだけど」

   「うん」

キリコ 「奏ちゃんが岐阜の生活に慣れるように、ちょっとの間、ふたりで岐阜に行ってみようかなって」

   「うん」

これからの家族の生き方を、家族みんなで決める。 / 22話 sideキリコの画像4

――翌朝。

冷蔵庫に何もなさ過ぎて、父の車でマクドナルドに向かい、朝マックしたあと、駅に送ってもらった。

その道中、夫から「履歴書、出したよ」とメッセが来た。

家を買うことに関してのらりくらりだった夫がこんなにもテキパキと動いてる。

円田家はいま「ススメ!」な運気なのかもしれない。


純一  「はい、到着しました~」

奏太  「わーい! ママー、しんかんせん乗る?」

キリコ 「乗らない」

純一  「忘れ物ない?」


「うん」と言いかけて、言い直すことにした。


キリコ 「お父さん、あのさ」

純一  「ん?」

キリコ 「うちさ、岐阜に家を買うかもしれない。まだ分かんないけど」

純一  「いいんじゃない? その辺の釣り場に行くときは泊めてね」

キリコ 「よく考えろよ、とかないのね」

純一  「ないよ。だってキリコは、昔から決めたことは誰が何といってもやるじゃない。俺に似て」


…言われてみればそうですね。

そっか、私はお父さん似だったのか。


キリコ 「……またいろいろ決まったら連絡するね。お母さんによろしく」

純一  「はいよ」


――川口に戻ったその日の夜。

定時で帰宅した夫と共に、夕食は外食することに。

近所のステーキハウス「でん丸」でソファー席に着き、円田家は月1の家族会議を始めた。


これからの家族の生き方を、家族みんなで決める。 / 22話 sideキリコの画像5




   「2018年1月の家族会議を始めまーす」

奏太  「はーい! ママ、しゅきね」

キリコ 「書記ね。はい。私から」

奏太  「どうぞ」


私は隣に座っている奏太に体を向ける。


キリコ 「奏ちゃん」

奏太  「なあに?」

キリコ 「パパとママね、あの電車の見えるおうちに引っ越したいと思ってるの」

奏太  「あそこ、でんしゃ見えたよね。おうちからね。すごいよねー!」

キリコ 「でも引っ越したら、幼稚園は桜葉になっちゃうの」


私の言葉に奏太が分かりやすく不機嫌な表情になる。


奏太  「やだ!」


そんなこと想定内だ。ここでやめないで色々聞いてみよう。

夫と目を合わせてうなずき、私は続ける。


キリコ 「奏ちゃんがいやなのは何でだろう?」

奏太  「うーん、だってー、イヤなんだもん」

キリコ 「川口つばさがいいから?」

奏太  「うん」

キリコ 「じゃあなんで川口つばさがいいんだろう?」

奏太  「うーん、だってー、川口つばさはー、リョウくんがいるしー、カノンちゃんもいるしー、他にもいーっぱいお友だちいるんだよ。それに麻美先生もいるしー。滑り台もあるしー。ぞうさん公園もあるしー」

   「奏ちゃん、桜葉をイヤだっていうのはそれの反対ってことだよ」


奏太はハンバーグを口に入れたまま、不思議そうに夫を見つめる。


奏太  「はんたい?」

   「桜葉には、知ってるお友だちがいない、先生も知らない。だからイヤなんじゃないの?」

奏太  「うん、そうそう!」

   「でもね、桜葉にも滑り台はあるし、幼稚園の近くに公園もあったじゃん。パパと言ったところ。覚えてる?」

奏太  「うん」

キリコ 「あと電車の見えるおうちもあるよね」

奏太  「うん」

キリコ 「だからさ、今度はママと奏ちゃん2人でおばあちゃんちに泊まりに行ってみない? それでさ、電車の見えるおうちを見に行って、近くの公園も行って、桜葉の滑り台も滑ろうよ」

奏太  「うーん」


皿の上のにんじんをフォークで転がし始めた奏太に、夫はスマホでネット画像を見せる。


これからの家族の生き方を、家族みんなで決める。 / 22話 sideキリコの画像6




   「見てこれ。桜庭のお庭にある幅の広い滑り台」

奏太  「あ、これあったよ! あったよね、ママ!」

   「あれ面白いんだよ。パパもやったことあるんだよ」

キリコ 「え、パパの時からあるの、あれ」

   「さすがに直したりしてるだろうけど、当時からあるよ」


夫が滑ってた滑り台を奏太も使うことになるかもしれないなんて、なんか感慨深いわ。


   「滑り台、面白いからやってきなよ」

奏太  「…パパも一緒に滑り台するの?」

   「ううん、パパはお仕事があるから、お休みになったらおばあちゃんちに行くよ」

奏太  「うーん」


まだ3歳の奏太に無理をさせることはしたくない。

伝えたい事は話せた。あとは奏太の答えを待ってみよう。


   「……じゃあ、目標いこっか。ママ」

キリコ 「うん、そうだなぁ…。今月もあんこものをたくさん食べて、感想をインスタに載せる、のと、料理系の雑誌をたくさん読んで、味を伝える表現力を学びたいです」


ここのところバタバタであんこを味わう余裕もなかったなぁ。

あんこ不足、あんこ切れ、あんこロス…。


   「俺は…今作ってる服を完成させる、かな」

キリコ 「何作ってるの?」

   「それは内緒ってことでお願いします。出来てからのお楽しみってことでね。はい、次、奏ちゃん」

奏太  「うーん、さむいからー、雪ふる?」

キリコ 「どうなんだろ? とっても寒くなったら降るかもしれないね」

奏太  「じゃあ、雪を…雪であそぶ!」


ステーキハウスから賃貸マンションまで家族3人、奏太を真ん中にして手を繋いで歩いて帰った。

その時はもう岐阜の話はせずに、奏太はやりたい雪遊びのこと、私が食べたいあんこのことを話した。


これからの家族の生き方を、家族みんなで決める。 / 22話 sideキリコの画像7




キリコ 「はい、ただいま。寒かったねー」

   「あー、コーヒー買ってくればよかったな。行ってこようかな」

キリコ 「えー、じゃあ私のもお願い」


なんて話していたら急に奏太が「いいよ」と言い出した。


キリコ 「奏ちゃんもコンビニ行くの?」

   「寒いからママと家で待ってなよ。何か欲しいものあるの?」

奏太  「ちーがーうー。ママと奏ちゃんでおばあちゃんちに行ってもいいよってい言ってるの!」


…え、なに?

どうした急に、どこでスイッチ入った?

この部屋の玄関の狭さにうんざりしたのか?

あの戸建てを思い出したのか!?


キリコ 「奏ちゃん、本当?」

奏太  「パパー、ぼくにはグミ買ってきて」

キリコ 「ねえ、奏ちゃん。本当にママとおばあちゃんち行くの?」

奏太  「うん」

キリコ 「じゃあ行こう!」


私は思わず奏太を抱きしめた。

お互いの頬が触れ合い、冷たいけど気持ちがいい。

これからの家族の生き方を奏太も一緒に決めようとしてくれているようで嬉しかった。


それから義母・真由美に電話をしてすべての事情を話し、火曜日のプレに参加できるように、月曜日、義実家へ行くことにした。

私は再び家族会議のノートを開き、「ママと奏太、岐阜に慣れる」と書き足した。

そのチャレンジの中で私と奏太はある親子に出会うことになる――。

これからの家族の生き方を、家族みんなで決める。 / 22話 sideキリコの画像8

▶︎▶︎ 次回、23話は、5/1(火)20時公開予定!

これからの家族の生き方を、家族みんなで決める。 / 22話 sideキリコの画像9

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この記事を書いた人
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さいとう美如

フリーライター。映像作家の岩井俊二に師事し、2005年にラジオドラマで脚本家デビュー。映画『虹の女神』、恋愛スマホゲーム『花婿ロワイヤル』、そのほか小説、漫画原...

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